あのころは 3の2乗+4の2乗=5の2乗 という3、4、5の組み合わせを覚えましたが、これを「ピタゴラスの三つ組み数」と呼びます。(5、12、13)、(20、21、29)など、「ピタゴラスの三つ組み数」は無数にあり、2000年前にエウクレイデスが無数にあることを証明しています。
スーパーアメリカst.croixフォールズ、ウィスコンシン州
ところが2乗を3乗に変えるだけで問題は一変します。Xの2乗+Yの2乗=Zの2乗 ではなく、Xの3乗+Yの3乗=Zの3乗 とするだけで証明が難しくなるのです。そして「フェルマーの最終定理」とは、3乗以上の場合は整数の答えがない、というものです。ピエール・ド・フェルマーがある本(西暦250年頃に生きたディオファントスの『算術』)の余白に、「それを証明したが、この余白には書ききれない」という、いらだたしいメモを残して以来、360年間にわたって数学者を苦しめてきました。
4乗の場合はフェルマー自身が「無限降下法� �による証明を残しています。3乗の場合に整数解がないことはレオンハルト・オイラー(18世紀最大の数学者)が証明しました。しかし、オイラーの証明までにはフェルマーの死から100年もの時間が過ぎています。以後、数学者は新しい数学理論を開発しながらフェルマーの最終定理に挑みますが、次の進展は、18世紀に生まれ、19世紀に活躍したソフィ・ジェルマンまで待たねばなりません。
トウィンフォールズの紙
女性が学問の道、中でも数学の道に進むことが社会的に容認されていない時代、男性の名を騙って教育を受けるなどの苦労をしながら、大きな成果を上げました。2×n+1 の答えが素数になるような素数をジェルマンの素数と呼びますが、nをジェルマンの素数とすると Xのn乗+Yのn乗=Zのn乗 にはおそらく解がないことを証明したのです。
「おそらく」というのが微妙な所で、ジェルマンの証明に基づいて、1825年、ディリクレとルジャンドルの二人が別々に n=5 の場合に解がないことを証明しました。さらに1839年、ガブリエル・ラメが n=7 の場合を証明しました。
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ここまでわずかな進展しかないように見えますが、n=3の場合が証明されているため、3の倍数はすべて証明されたことになりますし、4の倍数もオイラーのn=4の場合の証明により、すでに証明済みです。もっと重要なことは、すべての数は、素数であるか、素数を掛け合わせた合成数のどちらかであり、従って「フェルマーの最終定理」も素数の場合だけを証明すればよいのです。
しかし素数は無限にあります。このことは2000年前のエウクレイデスが証明しています。まだ3と5と7の場合が証明されたに過ぎません。
その後、ある種の素数についてはオーギュスタン・ルイ・コーシーやラメによって証明がなされまし たが、31や59、67などの「非正則素数」の証明ができないまま、アラン・チューリング(第2次世界大戦で暗号解読に従事、最初のコンピューター製作者)などが機械を使って力づくの計算を行い、「証明」を進めていきました。しかしそれを「証明」と言えるかどうかの議論が残ります。
こうした経過を辿りながら、最終的に「フェルマーの最終定理」が証明されたのは、1994年、アンドリュー・ワイルズによってです。ワイルズの証明に至るまでには、実に様々な理論が開発されました。L系列の谷村=志村予想(今は定理になっています)、楕円曲線、ヘッケ環、双曲空間のモジュラー形式(保型形式)、岩澤理論、コリヴァギン=フラッハ法―――私には何のことやら分かりません。
しかしピタゴラスの定理を2乗からn乗にするだけで、整数解がないことを示すのに360年もかかり、数多くの理論が必要だったなんて、数式が小学生でも理解できるものだけに、証明の物語にわくわくするのです� ��
ただこの場合、フェルマーの時代にはなかったテクニックで証明されていますから、フェルマー自身の証明とは違うはずです。フェルマーの時代の数学だけを使った証明方法があるのではないか、今も数学愛好者はそうした前提で研究を進めています。しかし、もしかしたらフェルマーの勘違いだったと言うこともあり得るのですが・・・。
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